朝起きてまず読むもの

 真っ先に目が行くのは天気予報で、そのまま「編集手帳」へと流れる朝が多い。ねぼけた頭をいくらか“しゃん”とさせてくれる、ありがたい存在。今年最初の朝も、そんな風に始まりました。

 机の上に独楽が置いてある。年の瀬に訪ねた京都の路地で道に迷い、案内を請うた店先で見つけた。木の胴に鉄の輪が巻かれている◆懇切丁寧に道を教えてもらったお礼の気持ちも手伝っての買い物で、格別懐かしさに誘われたわけでもなかったが、鉄の輪に唇を寄せるとひんやりした感触に覚えがある。唇に宿る記憶もあるらしい◆(中略)昭和初年の子供たちは、独楽が回転して不動に見える状態を指して「澄んだ」と呼んでいた(中略)◆加藤楸邨に、「負独楽は手で拭き息をかけて寝る」という句があった。テレビゲームの世を迎え、強くなれよと独楽におまじないの息を吹きかけて眠りにつく子供には、いずれこの十七文字のなかでしか会えなくなるのかも知れない◆年が明けた。人それぞれに忙しい独楽の明け暮れが待っている。人づきあいの壁に衝突したり、力みすぎてあらぬ方に飛んだり、心に息を吹きかけて眠る夜もあるだろう。「澄んだ」記憶の残る一年でありますように。
(2007/1/1 読売新聞朝刊「編集手帳」)


切り抜き第一号となったのでした。